朝は、宿の朝食から始まりました。朝食は上のテラスでいただくことになっていて、そこからの眺めはとてもきれいでした。岩の下にあるような村の景色が朝の光の中に広がり、南フランスらしい静かな時間でした。
ただ、ゆっくり味わうには少し難しい朝食でもありました。テーブルにはハチがたくさん寄ってきました。ミツバチではなく、細長い体をしたワスプのようなハチです。ジャムの中に飛び込んだり、オレンジジュースに入ったりして、落ち着いて食べるどころではありません。
宿のお兄さんに言うと、「大丈夫、速く動かなければ刺さないから」と言われました。たしかにそうなのかもしれませんが、目の前でハチが飲み物や食べ物に入っていくと、やはり気になります。景色は素晴らしかったものの、朝食を食べた気がしないまま出発することになりました。
この日は、まずフォンテーヌ・ド・ヴォクリューズへ向かいました。ここは湧き水で知られる村です。
村の中には澄んだ水が流れていて、川の水は驚くほどきれいでした。岩山と木々の間を透明な水が流れ、暑い季節の南フランスで、そこだけ空気が少し涼しく感じられました。
観光地ではありますが、水辺に沿って歩いていると、自然の静けさも残っています。強い日差しの中で、川の透明感や水の音が印象に残りました。プロヴァンスの村というと、石造りの家やラベンダー畑を思い浮かべますが、こうした水の風景もまた、この地方の魅力なのだと思いました。
その後、車を走らせてアヴィニョンへ向かいました。アヴィニョンといえば、有名な橋があります。歌にも出てくる「アヴィニョンの橋」です。名前だけは以前から知っていましたが、実際に訪れるのは初めてでした。
橋へ行く前に、まずアヴィニョン教皇庁宮殿を見学しました。
アヴィニョンは、かつてローマではなく教皇が滞在した町です。そのため、この宮殿には宗教的な場所というだけでなく、大きな権力の中心だった時代の重みが残っていました。
外から見ても要塞のように大きく立派ですが、中に入ると、石造りの空間の広がりに圧倒されます。豪華に飾られた宮殿というより、歴史の厚みがそのまま壁に残っているような場所でした。
町の中にこうした建物が自然に残っているところに、ヨーロッパの古い町らしさを感じました。
その後、いよいよアヴィニョンの橋へ向かいました。私は、川の向こうまで渡れる橋を想像していました。ところが実際には、橋は途中で途切れていて、全体の三分の一ほどしか残っていません。少し拍子抜けしましたが、その不完全な姿が、かえって長い時間の流れを感じさせました。
この日は風がとても強く、橋の上では体を持っていかれそうになるほどでした。観光気分で歩きながらも、吹き飛ばされないように気をつけなければなりません。明るい光と広い空の下で、アヴィニョンの橋を歩く時間は、少し緊張感のある思い出になりました。
アヴィニョンを後にして、この日の宿泊地であるニームへ向かいました。
宿は少し不思議な造りでした。外から見ると普通の集合住宅のような建物なのですが、中に入ると奥へ抜け、その先に中庭のような空間があります。そこに木造の二階建ての宿が建っていて、外からはまったく想像できない場所でした。
荷物を置いたあと、ニームの町を歩いて円形闘技場へ向かいました。宿からは歩いて20分から30分ほどです。
町の中を歩いていると、突然ローマ時代の遺跡が現れるようで、フランスにいるのに古代ローマの世界に入り込んだような気がしました。
円形闘技場では、ちょうどコンサートが始まるところだったようです。入口の前にはたくさんの人が並んでいて、観光客だけでなく、これからイベントに入る人たちの熱気もありました。古代ローマの遺跡が、今も町の中で生きた場所として使われていることが印象的でした。
円形闘技場の前には、おしゃれなカフェがありました。そこでビールを飲みながら、少し休むことにしました。観光地らしい雰囲気のある店で、遺跡を眺めながら過ごす時間はなかなか贅沢でした。
ただ、トイレに行って少し驚きました。きれいなカフェだったのに、洋式トイレではなかったのです。店の雰囲気との落差が大きく、妙に印象に残りました。旅先では、こういう小さな驚きの方が、後からよく思い出されることがあります。
宿へ戻る途中でスーパーに寄り、ビールやつまみを買いました。外でしっかり食事をするより、宿でゆっくりしたい気分でした。部屋に戻ってからは、日本のメーカーですがヨーロッパ製のカップ焼きそばを食べることにしました。
ところが、ここでも少し残念なことがありました。テレビでサッカーを見ようと思ったのですが、操作がなかなか複雑で、どのチャンネルをどう見ればよいのか分かりません。あれこれ奮闘しているうちに、すっかりカップ焼きそばにお湯を入れたことを忘れてしまいました。
気づいた時には、麺がお湯をたくさん吸い込んで、すっかり伸び切っていました。本当ならもっと美味しいはずなのに、残念な焼きそばになってしまいました。それでも、ニームの宿でビールを飲み、テレビと格闘しながらカップ焼きそばを食べる時間は、妙に旅らしい夜でもありました。
この日は、朝のハチから始まり、フォンテーヌ・ド・ヴォクリューズの澄んだ水、アヴィニョンの橋、そしてニームの円形闘技場へと、景色が大きく変わっていきました。美しい場所を巡った一日でしたが、同時に、ハチや強風、不思議な宿、伸び切った焼きそばまで含めて、忘れにくい一日になりました。














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