この日は少し仕事をしました。時間にして4時間半ほどだったでしょうか。本当は、あと1時間も続ければ区切りのよいところまで終わりそうだったのですが、夕方になって友人から連絡が入りました。
「バルに行かない?」
正直なところ、仕事を終わらせたい気持ちはありました。それでも、こういう誘いを毎回断るのもどうかと思い、付き合いのつもりで出かけることにしました。
前日から天気はどんよりしていました。
雨も降り、この日も空には雲が残っていて、夕方に出かけるころも、どこか冬に戻ったような空気でした。バルの外に座ったときも、最初は少し肌寒く感じるほどです。
ところが、しばらくすると雲の切れ間から太陽が顔を出しました。
春の夕方の光は、真上から降り注ぐ夏の光とは違います。日が傾き、斜めから差し込んでくるため、白い壁に反射して、目を開けているのがつらいほど眩しくなります。
曇っていると思ってサングラスを持ってこなかったのですが、こういうときのスペインの光を甘く見てはいけません。特にアンダルシアの白い村では、壁に跳ね返る光まで強く、目に刺さるように感じることがあります。
そんな光の中でしばらく過ごしていると、顔見知りのカップルがやってきました。彼らは週末だけ営業するローストチキンの店に行くと言います。こちらでは、週末に鶏を丸ごと焼いて売る小さな店があり、家で食事を用意する代わりに、そこで買って帰る人も多いです。
ただ、彼らが向かおうとしていた時間は、まだ少し早すぎました。
「まだ早いよ」と言うと、彼らも「散歩がてら見てくる」と出かけていきました。しばらくして戻ってくると、やはりまだ開いていなかったようで、電話番号だけ持って帰ってきました。
こういう店では、電話で予約しておくのが一番確実です。何時ごろに取りに来てください、と言われるので、その時間に合わせて行けばよいのです。早めに行けば買えることもあるようですが、その「早め」が夜の8時ごろだったりします。
日本の感覚では、夜8時はもう夕食の時間というより、少し遅いくらいかもしれません。けれどスペインでは、夕食はだいたい夜9時ごろからです。ですから、夜8時に店が開くというのは、こちらでは少し早めの営業なんです。
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| 夜9時前 |
日が長い季節なら、それでもまだ外は明るいので違和感は少ないのですが、冬のように日が短い時期には、「もう少し早く開けてくれてもいいのに」と思うことがあります。とはいえ、これも食文化の違いです。スペインで暮らしていると、食事の時間ひとつにも、その土地のリズムがあることを感じます。
そのローストチキンの時間まで、みんなはバルで過ごすつもりのようでした。私は帰りにスーパーへ寄ろうかとも思っていました。土曜日は開いていますが、日曜日は基本的に店が閉まります。スペインの地方では、日曜日に買い物をしようと思っても、スーパーも個人商店も閉まっていることが多いのです。
けれど、ビールを2本飲んだところで、なんだか急に疲れてしまいました。家にはまだ食べるものもありますし、無理に買い物をしなくてもよいかと思い、スーパーには寄らずに帰ることにしました。結局、みんなより先に席を立ちました。
最近、バルに行っても、以前ほど心から楽しめないことが増えたように感じます。昔は、みんなの会話を聞いているだけでも楽しく、何でもない話でケラケラ笑っていました。言葉の問題ではなく、もっと感覚的に気が合う人たちと一緒にいたからかもしれません。
気が合う人と出かけると、何をしていても楽しいものです。特別な場所に行かなくても、ただバルで飲んでいるだけで時間があっという間に過ぎていきます。以前は「バルに行こう」「行こう、行こう」という軽いノリがありました。
けれど最近は、誘われても「付き合いだから行こうか」という気持ちのほうが先に立つことがあります。もちろん、声をかけてもらえるのはありがたいことです。それでも、以前のようなワクワク感が少なくなっているのも正直なところです。
年齢のせいなのか、生活のリズムが変わったからなのか。いろいろ理由はあると思いますが、確実に言えるのは、昔仲の良かった人たちがそれぞれ母国へ戻ってしまい、今は気軽に会えなくなっているということです。
人と会うことが楽しい日もあれば、少し疲れてしまう日もあります。スペインの村暮らしは人との距離が近い分、そうした気持ちの変化も、よりはっきり感じるのかもしれません。
家に戻ってからは、少しだけのつもりでゲームをしました。ところが、気づけばまた遅い時間まで起きてしまいました。
私は夜12時を過ぎたあとの時間が、なぜかとても好きです。静かで、誰にも邪魔されず、これから何かを始めたくなるような不思議な高揚感があります。けれど、そこで何かを始めてしまうと、あっという間に2時間ほど過ぎてしまいます。
やはり、夜11時になったら寝る準備を始める。そしてベッドに入る。これを徹底しなければいけないと思いました。
春の夕方の眩しい光、バルでの何気ない会話、スペインらしい遅い夕食時間。そして、自分の中にある少しの疲れと夜更かしの癖。
特別な出来事があった一日ではありませんが、こうした小さな感覚の積み重ねこそ、旅先や異国で暮らす日々の記憶として残っていくのだと思います。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

