この日も、朝から風の強い一日でした。外に出ると、春らしい爽やかさが感じられます。
そんな中、私は家の中で仕事をしながら、静かに時間を過ごしていました。
ドアは開けていたものの、虫が入らないように細長いビニールのカーテンのようなものを下げています。
スペインの田舎ではよく見かける簡易的な虫よけで、風に揺れる様子や、かすかに擦れる音が、温かい季節の訪れを感じさせます。
仕事に集中していると、ふいに視界の端に黒い影が入りました。顔を上げると、見知らぬ黒い犬が、まるで自分の家のように中に入ってきていたのです。
一瞬、何が起きたのか理解できず、頭が真っ白になりました。
「あれ、この子は私が世話をしている犬だったかしら」と、ほんの一瞬、本気で考えてしまったほどです。
すぐに我に返り、「アウト」と声をかけながら外へ追い出そうとしましたが、その犬は慌てる様子もなく、テラスでマーキングをしてから、ゆっくりと出ていきました。
その犬は、隣の敷地で飼われている犬です。脚力があり、フェンスを軽々と飛び越えてやって来ると、以前から聞いてはいました。
悪気があるわけではないのでしょうが、こうして敷地に入り込んでくるうえに、あちこちにマーキングをされるのは、やはり気持ちの良いものではありません。
ここで預かっているワンちゃんは避妊手術がされているため、その点での心配はないものの、外から自由に犬が出入りしてくるのはあまりよい気分ではないです。
思い返せば、数年前にも似たような経験がありました。
この家を預かっていたとき、外出しようとゲートに向かったところ、細い通路を挟んだ隣の敷地のフェンスの隙間から、まず子犬が出てきました。
可愛らしい姿に気を取られたのも束の間、その直後、大きな母犬が威嚇しながら同じ隙間から出てきたのです。
その母犬の迫力に圧倒され、ゲートを開けることができず、外へ出るのを断念したことがありました。
そのため今回、ペットシッティングを引き受ける際には、「隣の犬が自由に出てこれる状態なら難しい」と、あらかじめ伝えていました。
幸い、その犬は今はいないと聞いていたのですが、それでも別の犬がこうして入り込んでくると、やはり少し不安を感じます。
村では、こうしたことに対してあまり強く文句を言う人はいません。お互いの距離が近く、長年の関係があるからこそ、多少のことは目をつぶる。そんな暗黙の了解のようなものがあります。
もしこれが外から来た人であれば、すぐに苦情がきたりと違った反応になるでしょう。スペインの田舎にはこのような小さな共同体特有の空気が感じられます。
そんな出来事のあと、ふと預かっている犬の様子を見ると、口の左側に小さなこぶのようなものがあることに気づきました。以前からあったものなのか、それとも新しくできたものなのか、はっきりとは思い出せません。
大事に至らないとよいのですが、念のため、しばらく様子を見ていこうと思います。
強い風の日には、思いがけない出来事が紛れ込んでくるものだと、改めて感じた一日でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。

