先週セビリアに行っていたのが、もうずいぶん前のことのように感じます。旅行から戻ってからの数日は、ほとんど家にこもって過ごしていました。仕事もあり、外に出る気分にもなれず、気がつけばあっという間に時間が過ぎていました。
けれども、この日の夜は外に出て正解でした。
まだこれから寒い夜が来るかもしれません。それでも、この夜は本当に気持ちのよい春の夜でした。少し前までは、夜に出かける時には冬の厚いジャケットを持っていかないと不安でした。5月とはいえ、スペインの山あいの村では、日が沈むと急に冷え込むことがあります。
この日も念のため、薄い羽織りものは持っていきました。けれども、外に出てみると空気がやわらかく、寒さを気にせずに過ごせる夜でした。昼間の暑さとも違い、夜風が心地よく、春らしい時間が流れていました。
バルでは、イギリス人のグループと一緒になりました。飲みながら話をして、楽しい時間を過ごしました。こういう夜は、特別な予定がなくても、外に出るだけで気分が変わります。家にこもっていた数日のあとだったので、なおさらそう感じたのかもしれません。
ところが、途中で少し恥ずかしいことがありました。
何かを思い出して笑ったのか、話している途中だったのか、自分でもはっきり覚えていないのですが、飲んでいたビールが喉に詰まりそうになりました。その瞬間、危うく噴水のように吹き出しそうになったのです。
私は昔、運動神経はよい方でした。中学校から大学までバスケットボールをしていたこともあります。そのおかげかどうかは分かりませんが、吹き出す直前に、とっさに腕を口に当てることができました。
周りに飛ばさずに済んだのはよかったのですが、そのあと腕に残った濡れた感じがなんとも気持ち悪く、しばらく気になりました。
その出来事で、ふと香港に住んでいたころのことを思い出しました。
当時、少し気になっていた人がいました。付き合うところまではいかなかったのですが、そういう雰囲気の人です。結局うまくはいきませんでしたが、ある夜、バーで偶然再会。
その時に、「フラミング・ボルケーノ」という強いカクテルを送り合いました。私が先に送り、そのあと相手からも送られてきたのです。名前からしてすでに危険な感じがしますが、飲んだあと、本当に気持ちが悪くなってしまいました。
帰りは友人に付き添われ、タクシーに乗りました。たった15分ほどの道のりですが、車の中でどうにも我慢できなくなりました。とはいえ、タクシーの中を汚すわけにはいきません。
そこで私は、自分の持っていたブランド物のバッグの中に吐いたのです。(友人には根性が座っていると褒められました^^)
今思い出しても、なかなかひどい話です。でも、その時はそれが精一杯でした。日本人だから、という言い方が合っているかは分かりませんが、とにかく人の車の中を汚してはいけないという気持ちだけはありました。
そのあとタクシーを降り、自分の住んでいたマンションまであと少しというところで、また気分が悪くなりました。道端でうずくまっていると、近くにいた香港人の男性たちが「大丈夫ですか」と声をかけてくれました。
こちらとしては、ありがたいけれど、恥ずかしくてたまりません。「大丈夫です、来ないでください」という気持ちでいっぱいでした。
そんな昔のことを、スペインの村のバルでビールを少し吹き出しそうになっただけで、突然思い出したのでした。人の記憶というのは不思議です。小さな感覚や、ちょっとした失敗から、遠い昔の場面が急に戻ってくることがあります。
家にこもっていた数日のあとで味わう夜風は、思っていた以上に心地よいものでした。明日にはまた寒い夜に戻るかもしれませんが、この夜だけは、日本の桜吹雪を思い出すような、やわらかく気持ちのよい春の夜でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
