この日は、友人の家で開かれた誕生日会に行ってきました。友人が車で迎えに来てくれ、隣村にある家まで向かいました。誕生日の主役は82歳の女性です。
彼女は、私がこのあたりに来たころと同じくらいの時期に、隣村に家を建てました。もう25年近く前のことです。
長くスペインで暮らしていましたが、3年ほど前に一度イギリスへ戻りました。あちらには息子さんがいて、しばらくはその近くで暮らすつもりだったようです。
けれども、やはり思うようにはいかなかったのでしょう。去年の10月ごろ、またスペインに戻ってきました。
その時にも一度会いに行ったのですが、その時はまだ以前とあまり変わらない印象でした。もともと年に何度かはこちらへ来ていたので、「また戻ってきたのだな」という感じでした。
ところが今回会って、少し驚きました。
以前よりもずいぶん弱っていて、足元も少しおぼつかない様子でした。今は、身の回りの世話をしてくれる人が見つかり、その人がそばにいてくれているようです。
息子さんもいますが、さすがに24時間ずっと一緒にいることはできません。そう考えると、信頼できる人が見つかったのは本当に良かったと思いました。
その方は普段、月曜日から金曜日まで住み込みで働いていて、週末は休みで自分の家に戻るそうです。けれども今回は誕生日会ということもあり、日曜日もいてもらっていたそうです。
食事の時間になると、彼女はなかなか自分で口まで食べ物を運べません。すると、世話をしている女性が手伝って食べさせようとしていました。
それを見た別の友人が、「それはやらないほうがいい。自分でやらないと、本当に自分で食べられなくなるから」と言っていました。
たしかに、その通りだと思います。
世話をする側としては、食べてもらいたいから手伝います。仕事としてそこにいて、目の前の人がうまく食べられなければ、自然と手を出したくなるのも分かります。
けれども友人として見ている人たちは、できるだけ長く自分の力で食べられるようにしておいたほうがいい、と考えるのです。
どちらの気持ちも分かります。だからこそ、見ていて少し考えさせられました。
人は最後に、どうなっていくのでしょう。
彼女も若いころは子どもを育て、離婚をし、その後も仕事や暮らしの中でいろいろな時間を重ねてきた人です。昔は元のご主人とも関係が良く、ビジネスもしていたと聞きました。広告関係の仕事だったのでしょうか。
ポルシェに乗っていたこともあるそうです。
そんな華やかな時代を過ごした人が、今は誰かの手を借りながら食事をしています。もちろん、それは特別なことではありません。誰にでも起こりうることです。けれども、実際に目の前で見ると、やはり胸に詰まります。
その時に、1年ほど前に訪ねた別の女性のことを思い出しました。
彼女は、私がこの土地に来て初めて出会った日本人の方です。その人を通じて他の日本人とも知り合い、今でも交流のある方たちがいます。
私は彼女と頻繁に会っていたわけではありませんが、周りの人たちが心配していて、「様子を見てきてくれないか」と頼まれたことがありました。以前には自宅を訪ねたこともあります。
ただ、彼女自身は、自分が弱っていく姿を人に見られるのが嫌だったのだと思います。若いころからとても華やかな暮らしをしてきた人です。
人前に出る時はきちんと整えて、明るく振る舞う。そういう姿を知っているだけに、自分の変化を人に知られたくない気持ちも分かる気がしました。
その後、彼女はコスタ・デル・ソルのマルベーリャ方面にあるケアホームに入りました。月に3,000ユーロほどかかると聞いたことがあります。
本来は弁護士を通さないと面会できないようでしたが、よく分からないまま直接行ってみると、会うことができました。
彼女は車椅子で降りてきました。
けれども、洋服もきちんとしていて、メイクもして、髪もきれいに整えていました。そしてにこやかでした。私のことを覚えているようでもあり、覚えていないようでもありました。
本当に忘れているのか、それとも忘れたふりをしているのか、そこは分かりません。ただ、「最近は物忘れがひどくて」と話していました。
一緒に行ったのはスペイン人の友人だったので、会話はスペイン語でもしました。スタッフは英語も話せるようで、入居者の多くは英語圏の人たちなのだと思います。
それでも彼女はスペイン語でも明るく、華やかに話していました。その姿を見て、少し安心したような、かえって切なくなったような気持ちになりました。
この日の誕生日会でも、同じようなことを考えました。
スペインに暮らしていると、いろいろな国から来た人たちと知り合います。若いころに別の国を選び、家を建て、仕事をし、人間関係を作り、長い年月をそこで過ごしてきた人たちです。
けれども年を取ると、どこで、誰と、どう暮らしていくのかという問題が、急に現実のものになります。
旅行で訪れるスペインは明るく、楽しく、自由に見えます。青い空があり、バルがあり、海や山があり、古い町並みがあります。
けれども、ここで暮らし続けるということは、楽しい時間だけではありません。年を取ること、体が弱ること、助けが必要になることも、当然その中に含まれています。
そんなことを考えながら、午後は少し気分を変えることにしました。
夕方5時、6時ごろになると、外の暑さが少し和らぎます。とはいえ、日差しはまだ強く、家の中にいるよりもプールサイドに出たくなる時間です。
泳ぐほどではありませんでしたが、プールに足だけ入れて、ぱたぱたと動かしました。音楽をかけ、ビールを片手に、ひとりでのんびり過ごしました。
プールのある家で、ひとり静かにこんな時間を過ごせるなんて、昔の私は知りませんでした。スペインの村に来たからこそ知った時間です。
特別な観光地ではありません。けれども、こういう何でもない午後に、ここで暮らす面白さがあります。
ただ、こういう家にずっと住みたいかと聞かれると、少し考えます。
広い土地やプールのある家は、たしかに魅力的です。けれども、その分やることもたくさんあります。植物に水をやり、プールの水位を確認し、フィルターがきちんと動くようにしておかなければなりません。
力仕事もあります。もちろん女性でも何でもこなす人はたくさんいますし、今の時代に「男手が必要」と言うのは少し古いのかもしれません。
それでも、現実には重いものを動かしたり、外回りの作業をしたりする時に、力のある人がいると助かる場面はあります。
だから私には、友人を手伝いながら時々こういう家で過ごすくらいが、ちょうどいいのかもしれません。
今の季節は、本当に過ごしやすいです。今年は少し季節の進みが遅いようですが、そのおかげで暑すぎません。外は暖かいけれど、家の中はひんやりしています。まだ窓やドアを全開にして風を通さなくても過ごせるのがありがたいです。
なぜなら、ドアを開け放すと虫が入ってくるからです。
この時期になると、ハエが増えます。大きなハエは勢いよく飛び回り、小さなハエは何匹も集まって、くるくると同じ場所を回っています。
蜂が入ってくることもあります。今はまだそこまでではありませんが、これから暑くなると、そういう小さな不便も増えていきます。
それでも、今はちょうどいい季節です。
週末や1週間ほど過ごすには最高だと思います。ワンちゃんと猫ちゃんの世話をして、植物に水をやり、プールの水を確認する。やることはありますが、慌ただしいほどではありません。
あとは本を読んだり、音楽を聞いたり、足だけプールに入れたりして過ごせばいいのです。
少し残念なのは、果物がまだあまり実っていないことです。木に果物がたくさんなっていれば、それを取って食べる楽しみもあります。今はまだそれができません。
誕生日会で老いについて考え、夕方にはプールサイドでぼんやり過ごす。少し重い気持ちと、のんびりした時間が同じ日にあるのも、スペインの田舎暮らしらしいのかもしれません。
華やかな人生も、静かな午後も、虫の多い季節も、全部がここでの暮らしの中にあります。


