10月3日、土曜日。ペットシッティング2日目です。
午後2時頃、一度自宅へ戻りました。大した用事ではありません。醤油と箸を持ってくるのを忘れていたのです。
村へ入ると、あちらこちらでキャンバスに向かっている人たちがいました。この日は年に一度開かれる油絵の写生大会の日です。毎年、いろいろな場所から画家たちがやって来て、村の風景を一日かけて描きます。確か一等賞の賞金は800ユーロほどだったと思います。
前日に役場前広場を通った時には、表彰式などに使うステージも準備されていました。ところが、この日は雨の予報が少し出ていたため、会場は急遽、屋根のある場所へ変更されていました。結局雨は降りませんでしたが、油絵を並べることを考えれば、万が一に備えたのでしょう。
自宅で醤油と箸を取った後はスーパーへ。ペットシッティング先の猫の餌が少なくなっていたので、買い足そうと思ったのです。しかし、いつも食べているものが見つかりません。
別の商品を写真に撮って飼い主に送り、「どれがいい?」と聞いてみましたが、すぐには返事が来なかったので、その日は買わずに帰ることにしました。
スーパーの前にも写生大会の参加者が大勢集まっていました。雨が降るかもしれないので、ここに集まってきているのです。
せっかくなのでGoProで少し動画を撮ったのですが、その後、大切にしていたGoProの小さなカバーがなくなっていることに気付きました。
「いつか落とすだろうな」と思っていたものが、本当に落ちてしまいました。
車を降りて会場へ行き、動画を撮り、スーパーに寄っただけなので、なくしたとすればその辺りのはずです。気付いてすぐ外へ出て探しましたが、見つかりませんでした。
小さくて可愛らしいカバーだったので、誰かが拾って、小物入れにでも使ってくれているのなら、それはそれでいいかなと思います。ただ、とても気に入っていたので、やはり少し残念です。ほんの短い時間だったのに、物というものはなくなる時にはあっという間になくなります。
それから隣村のヒメラ・デ・リバルへ向かいました。
ヒメラには毎年10月になると、ビアフェスティバルを開くバルがあります。ドイツのオクトーバーフェストにちなんだ催しで、昼から夜中まで何組ものバンドが演奏します。
私が着いたのは午後3時を過ぎた頃でした。ちょうどロンダから来た若い三人組のバンドが演奏していました。ギター兼ボーカル、ベース、ドラムの編成です。まだ20歳前後、もしかすると10代なのではと思うほど若い人たちでした。
普段この辺りで見るバンドは、長くプロとして演奏してきたベテランが多く、それはそれで本当に素晴らしいのです。ただ、この日の若いバンドを見ていると、やはり若さそのものが持つ格好良さというものがあるのだなと思いました。
ギターを持ってステージに立っている。それだけで絵になります。
三島由紀夫の作品だったでしょうか。昔どこかで読んだ「若さは罪」という言葉を、ふと思い出しました。
しばらく演奏を聴いていると、会場のすぐ裏に住む友人から「こっちへおいで」と声を掛けられました。行ってみると、タイ風のカレーを作っていました。少し辛口で、これがとても美味しかったです。
ご飯については、できれば私に炊かせてほしかったところですが、カレーそのものは絶品でした。ハンバーガーもいただき、ノンアルコールビールも2本飲みました。
会場ではまずチケットを買い、それを飲み物や食べ物と交換する仕組みになっています。人が多いので、チケットを買うだけでも一仕事です。
ちょうど買いに行こうとしていたところを友人に呼んでもらったので、ありがたくご馳走になることにしました。
その後は、日本人女性とスペイン人男性のカップルとも合流し、しばらく話をしました。
この祭りは昼から夜中の12時頃まで続きます。昼、夕方、夜と時間が進むにつれて客層も少しずつ変わり、夕方になるとまた新しい人たちがどっとやって来ます。知っている顔も増えてきて、話しているうちに時間がどんどん過ぎていきました。
そんな中、別の用事もありました。
私は村に住む友人の家の鍵を預かっています。彼女は一年の半分ほどしかこちらに住んでいません。その家に、息子さんの友人とその家族が泊まりに来ることになり、前日に突然「鍵を渡してほしい」と頼まれていたのです。
ところが私はその時間、村にはおらずヒメラにいます。
相手から「村に着きました」と連絡が来たので、「7時過ぎなら村を通るので、それまで待ってもらうか、ヒメラまで来てください」と伝えました。隣村ですから、それほど遠くはありません。
結局、ヒメラまで取りに来てくれました。
WhatsAppで現在地を送って待っていると、一人の若い男性が近づいてきました。そしてスマートフォンに表示した私のプロフィール写真を見せながら、
「これ、君?」
と聞いてきました。
「そう、私です」
プロフィール写真は少し仮装した時のものなので、よく分かったものです。
彼はフランス人で、現在はスリランカに住んでいるとのこと。友人の息子さんもスリランカにいて、仕事関係の知り合いなのだそうです。とても英語が上手で、フランス語訛りもほとんど感じませんでした。
しかも、なかなかのイケメンでした。
その様子を見ていた友人が、
「いくこ、オンラインデートしてるの?」
とからかってきました。
「違う違う。でも、こんなイケメンならデートしたいよ〜」
そんな冗談を言って笑いました。
楽しい時間でしたが、そろそろ帰らなければなりません。
午後2時頃からペットたちだけで留守番をさせています。猫は外へ出られますが、犬は家の中です。本当は7時半頃には戻るつもりだったのに、結局8時近くになってしまいました。
急いで家へ戻り、犬と猫にご飯をあげます。犬を庭へ出して一回りさせ、トイレも済ませました。
これで一日終了、ではありません。
今度は歩いて近くのバルへ向かいました。別の友人たちが家族で夕食を食べるというので、「おいでよ」と誘われていたのです。
そこには二つの家族が来ていました。
一方は英語圏の夫婦と娘さん、そして旦那さんのお母さん。下の娘さんは12歳くらいでしょうか。すでに身長が171センチもあるそうで、細く、脚が長く、顔も小さい。上のお姉さんは17歳くらいです。
もう一方も英語圏の家族で、お母さんと6歳くらいの娘ちゃん、そしてそのお母さんのお母さん、つまり娘ちゃんのおばあさんが一緒でした。娘ちゃんはこの辺りで生まれ、お父さんがスペイン人なので、すでに英語とスペイン語のバイリンガルです。
ここに住む外国人の子どもたちはバイリンガルあるいはトリリンガルになります。
夕食が始まったのは夜9時頃。
スペインに住んでいる私たちには普通になってしまいましたが、旅行で来た人には、この時間がなかなか大変です。イギリスやアイルランドなら、夕食は6時頃という家庭も多いでしょう。日本でも似たようなものです。
ところがスペインでは、夜9時になってようやく夕食が始まります。
この日も、旅行で来ていたおばあさんの一人は、途中でとうとうテーブルに伏せて寝てしまいました。
「大丈夫?」
という感じでしたが、考えてみれば無理もありません。普段ならそろそろ一日を終えようかという時間に、こちらではまだ食事の真っ最中なのです。
結局、17歳の娘さんが付き添って、家まで送っていくことになりました。残った私たちは、その後もしばらくワインを飲みながら話をしていました。
ペットシッティング先へ戻ったのは11時半頃だったと思います。
家へ入ると、犬も猫も、どこか寂しそうな顔をしていました。
やはり動物も、人がいないと寂しいのでしょう。
しばらくそばに座り、撫でながら一緒に過ごしました。犬も猫も少しずつ落ち着き、ようやく私も一日を終えることができました。
村の写生大会から始まり、GoProのカバーをなくし、隣村のビアフェスティバルへ行き、タイカレーを食べ、突然やって来たフランス人に鍵を渡し、夜は別の友人たちと夕食。
そして最後は、犬と猫を撫でながら静かな夜へ戻りました。
振り返ってみると、本当に長い土曜日でした。








