この日は、預かっている犬と一緒に川のほうへ散歩に出かけました。
車で駅の村の中を抜けしばらく行くと、かつて愛犬と一緒に歩いた懐かしいコースに出ます。ほんの一部ではありますが、その道を踏みしめると、当時の記憶がよみがえります。景色は大きく変わらないのに、時間だけが静かに流れているのだなって感傷に浸ってます。
2月の大雨の影響はまだ残っていて、川の流れも速く、水かさもまだ多いです。
預かっているワンちゃんなので、自由に放すわけにはいきません。伸縮式のリードを少し伸ばして様子を見ていたのですが、次の瞬間、勢いよく川へ入ってしまいました。
慌てて引き戻しながら声をかけます。幸い、泥が乾いていた場所だったため大事には至りませんでしたが、足元は少し汚れてしまいました。
それでも、ワンちゃんはどこか満足そうで、その様子を見ていると、こちらも自然と笑ってしまいます。こうした予想外の出来事も、犬との散歩の楽しさですね。
そして、帰りに駅の村に住んでいるクリスティーンに会い、一緒にバルコーヒータイム。その後、ワンちゃんをお家に入れて、荷物をまた引っ越しのように車に詰めてコルテス村へ戻りました。
私が家を後にしたのは午後3時ごろ。飼い主からは5時頃に帰宅すると聞いていましたが、実際には4時過ぎに戻ったとの連絡が入りました。犬も長い時間ひとりで待つことにならず、ほっとひと安心です。
そういえば、出かけるときに猫ちゃんに「またね」と声をかけるのを忘れていました。姿が見えなかったとはいえ、少しだけ心残りです。
家に戻って一息つこうかと思っていたところ、友人から連絡が入り、そのままバルへ。
話を聞くと、私が川沿いを散歩して汗ばんでいた頃、コルテス村は一日中どんよりと曇り、肌寒かったそうです。わずかな距離でこれほど気候が違うことに、あらためて驚かされます。山に囲まれたこの地域ならではかもしれません。
バルでは顔なじみのマルコスがやって来ました。来週は彼の犬の世話を頼まれています。今度の犬は少し大きめで、元気いっぱいです。田舎の家らしく敷地がとても広いため、必ずしも散歩に連れて行く必要はないのですが、それでもできれば外を歩かせてあげたい気持ちもあります。
ただ、自分の犬ではない以上、他の犬との関わり方には少し気を使います。小型犬であれば抱き上げることもできますが、大型犬となるとそうはいきません。
そんな流れの中で、思いがけない話題が持ち上がりました。
「君も一緒に泊まるんだよね?」と、一緒にいた友人にマルコスが言いました。
どうやら私が一人だと退屈だろうから、ということでそういう話になっていたようです。
けれど、正直なところ、私はあまり気が進みません。
外で友人と会い、バルでおしゃべりをするのは楽しい時間です。けれど、自分の生活空間に誰かと長時間一緒にいるとなると、話は別になります。私は昔からひとりで過ごす時間が好きで、孤独な空間に心地よさを感じるタイプなのです。
もちろん、昔ながらの気の合う友人であれば話は別です。以前、パリから友人が訪ねてきてくれたときは、4日間があっという間で、「もっと長くいてほしい」と思ったほどでした。けれど、それはごく限られた相手にだけ感じる特別な感覚です。
誰とでも同じように過ごせるわけではありません。バルで会うにはちょうど良い距離でも、同じ屋根の下で時間を共有するとなると、少し違和感を覚えることもあります。
この村で日本人ひとりで暮らしていられる理由も、結局はそこにあるのだと思います。ひとりでいることが苦ではなく、むしろ自然でいられる。寂しさを感じることも、ほとんどありません。
結局、その話はその場では曖昧なままになりました。
外に出ると、空にはうっすらともやがかかり、どこか湿った空気が漂っています。
「これは明日、雲海が出そうだね」
誰かがそう言い、皆で空を見上げました。
何気ない一日の終わりに、次の日の楽しみがひとつ生まれる。
そんな小さな予感とともに、この日は静かに幕を閉じました。
最後までお読みいただきありがとうございました。




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