朝起きると、思いがけないほど良い天気でした。谷間には雲海が広がり、白い雲が低く沈んでいます。
天気予報では「今日から崩れる」と出ていたので、この雲もそのうち持ち上がって、村を追い越していくのだろう、そんなふうに思いながら、しばらく窓の外を眺めていました。
10時過ぎにオンラインのレッスンを終えた時点では、まだ空は明るく、これは歩けそうだと思って散歩に出ることにしました。
ところが、外に出てしばらくすると様子が一変します。
雲が一気に広がり、太陽は姿を隠し、冷たい風が流れ始めました。厚手のジャケットにしておけばよかったかな、と思いながらも、「まあ大丈夫でしょう」と薄手の上着のまま歩き続けます。
正直、寒い。けれど、昨日ハイキングに行ったばかりだからこそ、今日も体を動かした方がいい、そんな気持ちが勝っていました。
歩いていると、村外れに警察の車が止まっているのが目に入りました。
「こんなところで何をしているんだろう?」
日本のような駐在所ではなく、村役場の一階に警察のオフィスがあり、常駐の警察官が時折、村を巡回しています。
ひっそりと駐車されている警察の車の中には誰もいません。もしかすると朝食の時間帯なので、家に戻っているのかもしれない。そんな勝手な想像をしてしまいました。田舎なので、こういう光景も不思議ではありません。
足元に目をやると、アイリスが咲いていました。昨日のハイキングでも見かけた花です。丈の低い種類で、この時期に咲くアイリスのようです。
最近、日本人のセルフディフェンス系YouTube動画が、なぜかよくおすすめに上がってきます。元特殊部隊出身という方の話で、特に印象に残ったのは、
「まずは危険を避けること。戦うのは最後の手段」
という言葉でした。とにかく早く走って逃げることが大切なのだそうです。
ここに住んでいると、体格の大きな人が多く、私がどうこうできる話ではありません。だからこそ「逃げる」は常に最優先事項。とはいえ、この村自体はとても安全な場所でもあります。
スマホの録音機能を使い、話しながら散歩することがよくあります。周囲にそれほど神経を張らずに歩けるのも、この村だからこそ。スペインの都市部では、こんなことはできないだろうと思います。
村には、特に北アフリカから来た16歳〜17歳の未成年の男子たちが暮らしています。30人ほどでしょうか。
以前は、周辺の村々の子どもたちが長い夏休みを利用して村に遊びに来た祭に使っていた宿泊施設を、国が村から借り受け、難民の受け入れ施設として使うようになりました。
当時は、地元のSNSでも賛否が激しく飛び交っていましたが、実際に彼らが問題を起こすことはありません。外出の際には必ずスタッフが付き添い、スペイン語の教育も受けています。
ただ、18歳になると、滞在許可の書類の有無に関わらず施設を出なければなりません。その先に待っているのは都会です。この穏やかな村から、いきなり厳しい現実へ放り出されて大丈夫なのだろうか、そんな心配がふとよぎります。
けれど、命がけで海を渡ってきた彼らなら、きっと強く生き抜いていくのだろう、とも思います。
2年ほど前、友人と歩いていたとき、彼ら同士の喧嘩に遭遇したことがありました。広場の塀の上から、大型のゴミ箱に飛び降り、それを踏み台にして何人もが道へ下りてきて、掴み合う喧嘩が始まったのです。
それまで私は足が痛く、友人とゆっくり歩いていました。ですが、ティーンの屈強な体格がぶつかり合うのを見た瞬間、全力で走ってその場を離れました。
痛いのなんて何も感じず一目散。我ながらよく走れたと感心しました。
そしてその後は友人と大爆笑。さっきまでの痛みは、いったい何だったのか。
喧嘩はその後、彼らを見守る村の担当者が仲裁に入り、一件落着したようでした。それ以降、そういった場面は一度も目にしたことはありません、
今日、そのYouTubeを見て思いました。
「あの判断は正しかったんだな」と。
セルフディフェンスを学ぶ前に、
まずは「100メートルを全力で走れる体力をつけた方がいい」
そんな言葉に、妙に納得してしまいました。
次は、散歩のついでに、少しだけ走ってみようか。そんなことを考えながら、冷たい風の中を歩きました。
そして午後6時ころ、雨が降り出しました。
最後までお読みいただきありがとうございました。





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