今朝、いつものように窓を開けてバルコニーに出てみると、目の前が一面、真っ白でした。雨かと思ったら雨粒は落ちてこない。ただただ濃い霧が村を包んでいたのです。
しばらくすると白さがゆっくり薄れ、やがて谷のほうへと流れていき、ロンダの方向まで続く美しい雲海が姿を現しました。思わず息をのむ景色でした。
1時間ほどして外に出てみると、空は一転してグレー。その隙間からときどき青空がのぞく、なんとも気まぐれな冬の空です。
午後からは雨が降るかもしれないとの予報。風は強くはないのですが、とても冷たくて体に沁みる寒さ。厚手のジャケットを着ないで外に出たのを少し後悔しました。
ガスストーブとの再会、そして試練
12月に入り本格的に寒くなってきたので、ようやくガスストーブを使おうと思い、昨日試してみたのですが……まったくうまくいきません。
去年ストーブが壊れて買い替えたとき、想像していたものと違う商品が届いて少し揉めた末、交換してもらったのですが、その新しいストーブも結局数回しか使っていないまま一年が過ぎてしまいました。
この村で使うガスヒーターは、後ろに大きなガスボンベを取りつけるタイプ。一般家庭用とはいえ、そのボンベがとにかく重い。おそらく35キロほどでしょうか。配達員の人が家まで運んでくれるものの、そこから設置するまでがまた大変で、腰を痛めないよう細心の注意が必要です。
以前はもう少し軽いボンベがあったのですが、値段が高くなり、今では安いけれど重いほうに一本化されたそうです。村にガスを運んでくれる業者の人も、前の人は3年ほどで体を痛めて辞めてしまい、今の人も「いつまで続けられるだろう…」と思ってしまうほどの重労働です。
冬はガスの消費が増えます。ストーブもお湯もガスで賄うので、冷たい水を温めるためにガスを多く使うのです。夏はぬるい水が出てきますが、冬は本当に冷たい。
一番の難関は「取り付け」
ガスストーブには、ガスボンベの頭に取りつけるアタッチメントがあります。
日本の常識でいえば、ストーブを買えば当然その部品も付いてくるはずですよね。ところが、ここではそれが付属していないのです。
初めてストーブを購入したとき、家で箱を開けてさあ使おうとしたら、肝心のアタッチメントがない。あのときの絶望感は今でも鮮明に覚えています。
どうすることもできず、結局友人にお願いして取りつけてもらいました。
しかも厄介なのは、アタッチメントのゴム部分が冬になると硬くなり、力いっぱい押し込まないと装着できないこと。私にはどう頑張っても無理なのです。
今回新しく買ったストーブは、お店でアタッチメントを付けてもらってから届けてもらいました。
ところが、いざガスボンベに差し込もうとすると、これがまたびっくりするほど硬い。
昨年はなんとか一度は取り付けられたものの、昨日は何度挑戦してもまったく入らず。手は痛くなるし、寒さはこたえるし、気持ちだけがどんどん空回りしていきます。
「友達に来てもらうべきか…。それともガスボンベをもう一本買って、配達のお兄さんに付けてもらうほうが早いのか…」
そんなことを考えながら、ただただ途方に暮れてしまいました。
力が必要な国で暮らすということ
ここで生活していると、しみじみ思うのです。お年寄りになっていくことが日本よりずっと大変だろうなと。
コンセント一つ抜くにも力がいる。やさしく引っ張った程度ではびくともしない。差し込むときも同じで、力強く押し込まないと電気が通らない。
ドアも重いし、スーパーのカートも、車輪の動きが悪くて妙に重い。
「何でも硬い国だなあ」と思うことが多々あります。
もちろん、たまには力を使う生活も、体には良いのかもしれません。でも、昨日のように何度やってもできず、泣きたくなるような、叫びたくなるような瞬間もあるのです。
香港とここを比べて思うこと
昔、香港で働いていた頃は、通勤中にしょっちゅう舌打ちしていました。舌打ちなんて本当にみっともない行動なのですが、どうしても我慢できなかったのです。むしろ、こちらが舌打ちされることもありました。
あの街は、とにかく忙しい。周りに気を配る余裕がないほど人が急ぎ足で行き交い、ルードな場面も多く、ちょっとしたことでイラッとしてしまう環境でした。
でも、この村に来てからは、そんなみっともない癖は自然となくなりました。ここは人も少なく、生活のリズムもゆっくりで、基本的に穏やかに暮らせる田舎だからだと思います。
とはいえ、穏やかな生活の中にも、コンセントやガスの取り付けのような小さなストレスは確かにあります。
それに停電も多く、電子レンジの時計設定が毎回リセットされる。そんな細々とした面倒が積み重なると、思わず「ガオッ〜!」と叫びたくなる瞬間があるのです。
それでも心を救ってくれるもの
そんな朝でしたが、ふと外に目を向けると、バルコニーの端で雲海のタイムラプス用のカメラが静かに景色を記録し続けていました。
レンズの先には、まだ薄く残った雲海がゆっくりと流れていて、その柔らかな白さを眺めているだけで、さっきまで胸の中にあったイライラがすっと消えていくのを感じます。
やっぱり、この村はいいところです。
不便なことや力仕事に振り回される日もあるけれど、こうして自然がそばで気持ちを整えてくれる瞬間が必ずある。
今日もまた、そんなふうに救われた一日でした。




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