朝9時半ごろ、散歩に出ました。空には大きな雲ではなく、細かくちぎれたような雲が広がっていました。日差しはあるものの、まだ朝の空気には涼しさが残っています。
この日は、かなり薄着で出かけました。ただし上には厚手のジャケットを羽織っています。歩き始めればすぐ暑くなるのは分かっているのですが、日陰に入るとまだひんやりします。春のアンダルシアでは、この服装の調整がなかなか難しいのです。
村にはキャンピングカーを停める専用スペースがあります。そこ以外には停められないのです。今日は5台ほど、春から初夏にかけて、このあたりを旅する人が少しずつ増えていきます。
側にはキャンプ場のような場所もあります。バーベキューができたり、学生さんの団体が泊まることが多いです。そこを通りかかると、音楽が大きく流れていました。見ると、友人のアロンソがペンキ塗りの仕事をしていました。
「おいで」と声をかけられ、久しぶりに中へ入らせてもらいました。
ここに入るのは、本当に何年ぶりでしょうか。20年ほど前、アルゼンチン人の知り合いたちに「誕生日パーティーがあるから来て」と誘われて、ここへ来たことがあります。それ以来、外から眺めることはあっても、中に入ることはありませんでした。
普段は使われていないときにはチェーンで入口が閉められていますし、開いているときは誰かが使っているので、わざわざ入ることもありません。
久しぶりに足を踏み入れて、「そういえば、こんな場所だったな」と懐かしくなりました。思っていたより奥行きがあり、改めて見ると、村の中にもまだ知らない場所があるものだと感じます。
5月初めにはまた大勢の人が来るらしく、その前にペンキを塗り直しているとのことでした。観光地というほど大げさではありませんが、こうした小さな準備を見ると、季節が次の段階へ進んでいるのを感じます。
散歩を続けながら、ふと思い出したのが車の保険です。もうすぐ引き落としがあることをすっかり忘れていました。金額を確認しなければと思い、慌てて見てみると、もしかしたら電話をすれば20ユーロほど安くなる可能性はありそうでした。
ただ、その20ユーロのために電話をして、時間を使って、あれこれ交渉するべきかどうか。こういう小さな判断は、海外暮らしの中で意外とよくあります。今年はこのままにして、もし来年さらに高くなるようなら、そのときに電話してみようかと思いました。
道端には、今たくさんの花が咲いています。崖のような険しい場所や、屋根の上のようなところにも、たくましく花が咲いているのを見ると、こちらの植物の生命力に驚かされます。
朝の早い時間には、少し雲海のようなものも出ていたようです。ただ、私が歩いているころには、気温が上がり始め、すでに蒸発していました。もしきれいに見たいなら、朝8時前には外に出ていないといけないのでしょう。
いつも写真を取る場所に進もうとしましたが、少し歩きにくくなっていました。草が伸びてきて、足元が見えにくいのです。特に気をつけなければいけないのが、犬の落とし物です。
残念ながら、スペインではまだ処理をしない飼い主も少なくありません。草に隠れてしまうと見えづらいので、足元を確認しながら歩く必要があります。
その一方で、春の景色は本当に見事です。木々には花が咲き始め、蜂がぶんぶんと忙しそうに飛んでいました。
黄色い花が特に目立ち、畑や道端が一面明るく染まっています。
数日散歩に出ないだけで、景色が一気に変わってしまうほどです。
来月にはマラガとセビリアへ行く予定があります。一緒に行くのはヨーロッパ在住の友人なので、朝から晩まで観光地を駆け回るような旅にはならないと思います。
それでも、ある程度は歩くことになります。毎日の散歩で少しずつ体力をつけておかなければいけません。
そんなことを考えながら歩いていると、アーモンドの木が目に入りました。よく見ると、実がかなり大きくなっています。
アーモンドの花は、1月後半から咲き始めます。桜に似た淡い花で、2月半ばごろまでとてもきれいに咲くのですが、今年は嵐が続いたせいで、花の見ごろを楽しうことができませんでした。雨風で花が傷んでしまい、今年はどうなるのだろうと思っていたのです。
アーモンドには蜂の働きが必要なはずです。あれだけ雨が降っていたら、蜂もあまり動けなかったのではないかと心配していました。けれど、しっかり実ができているのを見て、少し安心しました。
ただ、一つひとつの実が大きいということは、もしかすると数は少ないのかもしれません。実の数が少ない分、一つが大きく育っている可能性もあります。今年のアーモンドはもしかすると例年に比べて味がいいかもしれない。そんなことを想像しながら、春の道を歩きました。
夕方には、楽しみにしていた予定が一つ流れてしまいました。
友人の娘ちゃんがマラガに来る予定で、もしロンダのほうまで来ることがあれば会おうと話していたのです。
ところが、彼女が滞在している家は、私の住む地域とは反対側、グラナダ方面だったようです。距離があるので今回は難しい、という連絡が来ました。
残念ではありましたが、彼女はイギリスで就職することが決まっています。マラガはイギリスから見ると、気軽に来られる休暇先の一つです。きっとまた会える機会はあるでしょう。
それにしても感心したのは、彼女の日本語です。彼女のお父さんはイギリス人、お母さんは私の日本人の友人で、アメリカ育ち。大学はイギリスへ進学し、生活の中心は英語圏だったはずです。
それなのに、彼女から届いた日本語のメッセージはとても自然でした。手書きではなくスマートフォンで打つ日本語とはいえ、それでも表現がしっかりしています。
先日ラインで会話しましたが、話す日本語も上手です。英語圏で育ちながら日本語を保つのは簡単ではありません。
私の友人は、もともと幼稚園の先生でした。きっと家で丁寧に日本語を教えてきたのでしょう。
海外で子どもをバイリンガルに育てるには、親、とくに日本語を守る側の親の努力が欠かせません。その積み重ねを思うと、本当にすごいことだと感じました。
そのあと、廊下の電球が切れていたことを思い出しました。夕方といっても、こちらではもう夜8時ごろです。急いで買いに出たのですが、店はすでに閉まっていました。
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| 夜8時すぎでも明るい村 |
8時半まで開いていると思っていたのに、実際は8時で閉店だったのです。
しかもこの店は、昼もずっと開いているわけではありません。午後2時から5時半まではシエスタで閉まります。5時半に再び開けるなら、せめて8時半くらいまで開けていてくれたらいいのに、と少しがっかりしました。
帰る途中、いつものバルをのぞくと、顔なじみがいました。イギリス人のトム、オランダ人のカップル、そしてあとからノルウェーに住む夫婦も加わりました。
最初は何を話しているのかよく分からず、私はただ笑いながら座っていました。それでも、しばらくすると少しずつ話の輪に入っていきます。こういう時間が、村のバルの面白いところです。
オランダ人のカップルは、1年半ほど前にこの村に家を買いました。去年の12月にはご主人の節目の誕生日があり、オランダからたくさんの人が来て盛大に祝っていました。
その後しばらく姿を見なかったのですが、どうやら南フランスにあった家をようやく売り終え、これから本格的にこちらへ移り住むことになったそうです。
「嵐の時期に来なくてよかったね」と思わず言いたくなるほど、この冬は荒れた天気が続いていました。それでも、こうして戻ってきた二人を見て、村にまた新しい日常が始まるのだなと感じました。
そこへ、ノルウェーから来ている夫婦もやって来ました。奥さんはノルウェー人で、ご主人はアイスランド出身です。二人とも長くノルウェーで暮らし、学校の先生をしていたそうです。
今は退職して、長期の休暇を利用しながらスペインの村の家で過ごしています。
彼らはこの村に家を持って、もう8年ほどになるでしょうか。今回は3か月ほど滞在していたようですが、翌日には出発するとのことでした。
「何時のフライトですか」と聞くと、「車で帰るのよ」と言います。
ここからノルウェーの自宅まで、なんと約5,000キロ。途中、オランダで知り合いの結婚式に出席する予定があるそうで、そのため車で来たのだそうです。キャンピングカーではなく、普通の車です。
年齢的にも、車中泊やキャンピングカーでの寝泊まりではなく、きちんとホテルに泊まりながら移動したいと言っていました。翌日はまずサラマンカまで行き、そこで一泊するそうです。車で6時間ほどの移動だと言っていました。
さらに、ノルウェーに入ったら冬タイヤに替える必要があるとも話していました。スペインの村にいると、こういう話をさらりと聞くことがあります。日本にいると、5,000キロを車で移動するという感覚はなかなかありません。
この村には、驚くような旅をしている人たちが時々います。ランドクルーザーの屋根に寝泊まりできる高級テントを載せ、何か月も旅をしている人。ヨットで世界中を旅行したという人。国境をいくつも越えながら、当然のように暮らしと旅をつないでいる人。
私も日本に帰れば、比較的あちこち旅をしているほうだと思われるかもしれません。けれど、こちらにいると、私など足元にも及ばないような経験を持つ人が山ほどいます。そういう人たちの話を聞くたびに、世界の広さを思い知らされます。
この夜は、少し冷えました。ついこの間までは、春の夜の空気がまるで桜の花見のころのように柔らかかったのに、この日はまた冬に戻ったようでした。
ところが、ノルウェーの人にとっては、この気温でも「夏」なのだそうです。むしろ、この暖かさなのに外が暗いのが不思議だと言っていました。ノルウェーでは、このくらいの気温の夜なら、まだ外が明るい季節、白夜なのだそうです。
国が違えば、同じ気温の感じ方も、夜の暗さの受け止め方も違います。バルの片隅でそんな話を聞いていると、自分の中の当たり前が少しずつほどけていくような気がします。
最近はずっと村にこもりがちでしたが、そろそろ私ももう少し外の世界を見に行ってもいいのかもしれません。
朝の散歩で見た花やアーモンドの実、夜のバルで聞いた5,000キロの旅の話。小さな村にいながら、春の景色と遠い国々の空気が一日の中に混ざり合った、そんな木曜日でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。









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